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横浜地方裁判所 昭和60年(行ウ)32号 判決 1992年2月26日

原告

篠田健三

藤倉オソ

長谷川三喜子

四海良通

肥後昭彦

上村光一

下山ミネ子

右七名訴訟代理人弁護士

佐伯剛

小野毅

根岸義道

右訴訟復代理人弁護士

森卓爾

被告

逗子市長富野暉一郎

右訴訟代理人弁護士

横溝徹

横溝正子

被告

丸紅株式会社

右代表者代表取締役

吉田光雄

右訴訟代理人弁護士

杉浦正健

鈴木輝雄

被告

奈良建設株式会社

右代表者代表取締役

奈良武師

右訴訟代理人弁護士

石川博臣

右訴訟復代理人弁護士

豊岡拓也

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告逗子市長が、別紙物件目録一記載の各土地につき、被告丸紅株式会社に対して、別紙登記目録(一)記載の登記の各抹消登記手続をしないこと及び別紙物件目録二記載の各土地につき、被告奈良建設株式会社に対して、別紙登記目録(二)記載の登記の各抹消登記手続をしないことは、いずれも違法であることを確認する。

2  被告丸紅株式会社及び同奈良建設株式会社は、逗子市に対し、別紙物件目録一及び二記載の各土地を明け渡せ。

3  被告丸紅株式会社は、別紙物件目録一記載の各土地についてされた別紙登記目録(一)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。

4  被告奈良建設株式会社は、別紙物件目録二記載の各土地についてされた別紙登記目録(二)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、神奈川県逗子市に居住する住民である。

(二) 被告逗子市長富野暉一郎(以下「被告逗子市長」という。)は、昭和五九年一一月から市長の地位にある。

(三) 被告丸紅株式会社(以下「被告丸紅」という。)及び同奈良建設株式会社(以下「被告奈良建設」といい、被告丸紅とあわせて「被告会社ら」という。)は、共同で逗子市沼間三丁目において、大型宅地造成事業を実施しているものである。

2  逗子市の土地所有

別紙物件目録一及び二記載の各土地(同目録三記載の各土地の一部が分合筆されたものであり、以下「本件土地」という。)は、もと逗子市が所有していた。

3  被告会社らの土地占有

被告会社らは、現に本件土地を占有使用している。

4  被告会社らの登記

逗子市は、平成元年八月三〇日及び同年九月六日、被告会社らに対し、本件土地につき、別紙登記目録記載のとおり、所有権移転登記(以下「本件登記」という。)をした。

5  かくして、逗子市は、被告会社らに対し、本件土地の明渡及び本件登記の抹消登記手続を求める権利を有する。

6  監査請求

(一) 原告らは、昭和六〇年五月二七日、被告逗子市長において、別紙物件目録三記載の各土地につき所有権移転登記手続をするのは違法であり、また、被告会社らが右各土地を占有、使用しているのを放置しているのは違法な怠る事実に当たるとして、逗子市監査委員に監査を求め、必要な措置を講ずべきことを請求した(なお、被告らが本件登記をしたのは、本訴提起後であり、監査請求においては移転登記手続の差止が求められていた。)。

(二) 逗子市監査委員は、昭和六〇年七月二六日付けで、右監査請求には理由がない旨の監査結果を出し、同日、原告らにその旨通知した。

7  よって、原告らは、被告逗子市長に対し、地方自治法二四二条の二第一項三号に基づき、同市長が本件登記の抹消登記手続をしないことにつき、土地の管理を怠る違法があることの確認を、被告会社らに対し、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、逗子市を代位して本件土地の明渡及び本件登記の抹消登記手続を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告逗子市長

請求原因1ないし4及び6の事実は認め、同5の主張は争う。

2  被告会社ら

(一) 請求原因1(一)の事実は不知。同(三)の事実は認める。

(二) 同2ないし4及び6の事実は認め、同5の主張は争う。

三  抗弁(交換契約による逗子市の所有権喪失)

1  逗子市と被告会社らとの交換契約

昭和五九年五月一五日、逗子市と被告会社らとの間に、逗子市が所有する別紙物件目録三記載の各土地のうち本件土地を含む別紙交換提供地目録記載の各土地合計七八二五平方メートル(以下、まとめて「本件交換提供地」という。)と、被告会社らが宅地造成する地域内にある土地二万二六一八平方メートル(以下「本件交換取得地」という。)とを交換する契約(以下「本件交換契約」という。)が成立した。

2  本件交換契約に至る経緯等

(一) 逗子市は、沼間地区の学童の増加により、市立小学校(第六小学校)を新設しなければならない状況であったところ、同地区内に、横須賀市水道局が所有する別紙物件目録三(一)及び(二)記載の各土地(以下、同目録三記載の土地については、その番号により「(一)及び(二)の土地」等ということがある。)があったので、これを学校用地に使用する目的で、逗子市土地開発公社を経て(同公社の購入は、昭和五六年三月一二日)、昭和五七年六月九日買い入れた。

(三)及び(四)の土地は、(一)及び(二)の土地に隣接した道路であったが、逗子市は、これも学校用地の一部として利用する予定であった。

(二) ところで、学校用地として使用するためには、ある程度の面積(約一万五〇〇〇平方メートル)を必要とする。別紙物件目録三記載の各土地は、そのすべてを合わせても、適正な学校用地としては狭溢であったため、逗子市は、同目録三記載の各土地の隣接民有地を購入することにした。ところが、被告会社らが隣接民有地において、大規模な住宅開発計画を施行することになり、逗子市は、被告会社らと都市計画法に基づく協議をするうち、同開発地内に、被告会社らの協力で、十分な面積を有する学校用地を提供させたほうが得策であると考えるに至り、交換契約によって学校用地の必要面積を確保しようとした。

(三) そこで、前逗子市長三島虎好は、被告会社らと交渉した結果、昭和五九年五月一五日、逗子市と被告会社らとの間で、本件交換契約を含む次のとおりの協定(以下「本件協定」という。)を締結し、その旨の協定書、覚書等を取り交した。

(1) 被告会社らは、逗子市に対し、宅地造成区域内に小学校用地二万二六一八平方メートルを造成したうえ、本件交換提供地七八二五平方メートルと交換する(本件交換契約)。

(2) 被告会社らは、逗子市に対し、宅地造成区域内に中学校用地二万四七二七平方メートルを無償提供する。

(3) 被告会社らは、交換により取得する本件交換提供地のうち、一二八〇平方メートルをコミュニティ用地として逗子市に無償提供する。

(4) 被告会社らは、逗子市に対し、公共施設整備協力負担金として六六〇〇万円を納入する。

(5) 被告会社らは、逗子市に対し、公共公益施設整備協力費として、総額一億六五七八万三八〇〇円(この中には小学校校舎建築協力費八〇〇一万三〇〇〇円及び中学校校舎建築協力費四五六四万五〇〇〇円が含まれている。)を支払う。

3  本件交換契約は、別紙物件目録三記載の各土地のうち本件土地を含む本件交換提供地と、被告会社らの宅地造成地内にある本件交換取得地を小学校用地として造成したうえ交換するというものである。すなわち、本件交換契約は、交換対象地の所有権移転の効果を造成工事の完成という条件に係らせた確定的な交換契約であり、口頭弁論終結時においてその条件は成就している。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。昭和五九年五月一五日の時点において、別紙物件目録三記載の各土地につき、交換契約は締結されていなかったというべきである。

すなわち、本件交換契約は、覚書(<書証番号略>)によって締結されたものであるが、これは、被告会社らの住宅団地造成事業についての包括的な協定書に基づいて付属的に作成されたものであり、右時点においては、本件交換取得地が未だ造成されておらず、また、本件交換提供地の引渡時期も、被告会社らの造成工事完了後とされているだけで具体的に明示されていないばかりか、価格の評価すらされていない。したがって、右覚書は、交換契約を締結するための予約的事項を取り決めたものであるにすぎず、交換契約そのものではない。

地方自治法二三四条五項は、地方公共団体が契約につき契約書を作成する場合においては、当該普通地方公共団体の長又はその委任を受けた者が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとする旨規定している。この規定を受けて、逗子市においても逗子市契約規則(<書証番号略>)が定められ、細部の手続が規定されている。すなわち、交換契約についてもその形式は統一されており、覚書というタイトル自体許されていない。また、地番を特定しないまま契約を締結するということもありえない。重要な契約書の場合、契約書に相手方の実印を押捺し、印鑑証明書を添付することもあるし、相手方作成の文書には印紙を必要とする。このように、自治体の契約書は、後日の紛争を防止するうえからも厳格に様式化されており、本件のように覚書だけしかないような契約は、およそ考えられない。

逗子市監査委員も、本件の監査請求に対する判断において、監査結果の時点(昭和六〇年七月二六日)で交換契約が成立していない旨述べている。

本件登記の登記原因は、「昭和六三年三月三一日交換」であり、被告ら自身、昭和五九年五月一五日の交換契約が成立していないという認識をもっていたというべきである。

2(一)  同2(一)の事実のうち、別紙物件目録三記載の各土地の取得の経緯は認めるが、学校用地に使用する目的の存在は否認する。

(二)  同2(二)の事実は不知。

(三)  同2(三)の事実のうち、協定書、覚書等の存在及びその記載内容は認めるが、本件交換契約の成立は争う。

3  同3の事実のう、造成工事が竣工したことは認めるが、その余の主張は争う。

五  再抗弁(本件交換契約の無効)

1  行政財産を目的とする交換

本件交換契約の目的となった別紙物件目録三記載の各土地は、いずれも行政財産であり、地方自治法二三八条の四により、交換等の処分の対象にすることができず、これに違反する行為は無効である。

すなわち、逗子市は、同目録三記載の各土地を学校用地とするために取得し、管理していたものであり、これらの各土地は、公用又は公共用に供するための財産であるから、地方自治法二三八条三項にいう行政財産に当たる。そして、同法二三八条の四によれば、行政財産は、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができないものである(同条一項)。したがって、行政財産たる同目録三記載の各土地を含む本件交換提供地を交換の目的とした本件交換契約は、無効である(同条三項)。

2  契約手続の違法(議会の議決の欠如)

(一) 普通地方公共団体の公有財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを交換等してはならない(地方自治法九六条一項六号、八号、二三七条二項)。これは、公有財産の処分を原則的に禁止して、普通地方公共団体の長の独断専行に委ねず、条例制定権・議決権を有する議会による抑制を加えることにより、当該普通地方公共団体における地方財政の民主的かつ健全な運営をはかる趣旨の規定である。

(二) 逗子市議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例(逗子市条例第一四号(<書証番号略>)、以下「一四号条例」という。)三条(但し、昭和六二年二月九日条例第二号による改正前のもの。)は、議会の議決に付さなければならない財産の取得又は処分は、予定価格二〇〇〇万円以上の不動産又は動産の買入れ又は売払い(土地については一件五〇〇〇平方メートル以上のものに限る。)とする旨規定している。本件交換契約の締結はこれに該当するから、議会の議決が必要である。然るに、本件交換契約を締結する際には右議会の議決はされていない。したがって、本件交換契約は無効である。

(三) 地方自治法九六条一項六号は、条例で定める場合を除くほか、財産の交換には議会の議決を要する旨規定しているが、本件交換契約は、財産の交換、譲与、無償貸与等に関する条例(逗子市条例第一五号(<書証番号略>)、以下「一五号条例」という。)に該当しない。

3  本件交換契約による莫大な損害等

本件交換契約は、地方財政法八条に違背して逗子市に莫大な損害を与える違法な財産処分を内容とするものであり、また、一私企業の利益をはかることを目的とするものであって、公序良俗に反し、無効である。

(一) 本件交換提供地の価額は、本件交換取得地の価額に比べて著しく高額であり、逗子市は本件交換契約により莫大な損害を被ることになる。

すなわち、別紙物件目録三(一)及び(二)記載の各土地は、昭和五六年に逗子市土地開発公社がこれらを購入した際、一平方メートル当たり六万四〇〇〇円とされ、諸経費五一一万七七六〇円が控除されて、売買代金は、四億一三〇〇万円とされた。そして、その一年余り後の昭和五七年六月に逗子市が同公社から右土地を買い受けた際の売買代金は、五億八〇四一万八三四〇円であった。これらの事情及びその後の地価変動を考慮すれば、本件交換契約が締結されたと主張されている昭和五九年五月には、(一)及び(二)の土地の価格は、少なくとも一平方メートル当たり一二万円程度になる。そこで、一平方メートル当たり一二万円の評価で同時点における本件交換提供地七八二五平方メートルの時価総額を算出すると、九億三九〇〇万円となる。これを被告会社らの提供する本件交換取得地二万二六一八平方メートルの一平方メートル当たりの価格に換算すれば、約四万一五〇〇円となる。

しかし、本件交換取得地は山林であり、これに造成工事費を加えたとしても、逗子市が本件交換取得地を公共用施設用地として取得するために要する価格が一平方メートル当たり四万一五〇〇円に及ぶことはない。したがって、逗子市が小学校用地取得のため別紙物件目録三記載の各土地を含む本件交換提供地を交換に供することは、その価額において適正を欠いており、本件交換契約は、逗子市に莫大な損害を与える違法な財産処分である。

(二) 本件交換契約は、専ら住宅団地への通路を確保するために締結されたものであり、一私企業の利益をはかることを目的とするものである。そして、逗子市は、真に学校用地とする意思がないにもかかわらず、これがあるかのように偽って、横須賀市水道局から(一)及び(二)の土地を取得したものであり、信義に反する詐欺的ともいえる手段をもって右土地を取得したというべきである。

(三) 被告会社らは、本件交換契約に際し、次の事実を知り得た。

(1) (一)及び(二)の土地は、使用目的変更のときは横須賀市水道局と協議し、その承認を得るとの約定の下に取得したにもかかわらず、逗子市はその承認を得ないまま、これらを交換契約に供した。

(2) 本件交換契約締結時には、小学校建設の必要性はなく、仮にそうでないとしても本件交換契約締結直後にその必要性は消滅している。

(四) よって、本件交換契約は、逗子市に莫大な損害を与え、地方財政法八条に違反するとともに、反社会的要素を含み、かつ、特定の者の利益と癒着した不明朗な財産運営を抑制し健全な財政運営をはかろうとする地方自治法二三七条二項の趣旨にも反するものであり、民法九〇条の公序良俗に反する契約として無効である。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の主張は争う。

2(一)  同2(一)記載の規定の存在及びその趣旨は認める。

(二)  同2(二)記載の条例の存在、規定の内容及び本件交換契約につき、議会の議決を経ていないことは認め、その余の主張は争う。

一四号条例三条は、財産の取得又は処分のうち、不動産等の「買入れ若しくは売払い」について議会の議決に付さなければならないとするものであり、財産の交換はその対象とされていない。したがって、交換については、一四号条例の適用はない。

(三)  同2(三)記載の条例の存在は認めるが、その主張は争う。

3  同3のうち、(三)(1)記載の約定の存在は認めるが、その余の事実は否認し、その余の同3の主張は争う。

七  再抗弁に対する被告らの主張

1  本件交換提供地が普通財産であることについて

(一) (一)及び(二)の土地について

逗子市は、(一)及び(二)の土地を買い入れ、当初これを行政財産として管理していたが、本件交換契約当時は普通財産であった。

すなわち、逗子市は、昭和五七年七月二日、右各土地を、地方教育行政の組織及び運営に関する法律二八条三項の規定に基づき、逗子市教育委員会に引き継ぎ、同委員会は、これを学校建設用地として管理していたが、同教育委員会と逗子市管財課との協議の結果、昭和五九年三月三一日付けの書面により、同年四月一日教育財産の用途が廃止され、逗子市の管理に引き継がれて行政財産から普通財産に切り換えられた。

なお、右教育財産の用途廃止は、逗子市教育委員会教育長が決定した。地方教育行政の組織及び運営に関する法律二三条によれば、教育財産の管理は、教育委員会の権限であるが、同法二六条により教育委員会の権限に属する事務を教育長に委任することができ、逗子市においては、当時、教育財産の用途廃止に関する事項は、教育長の専決事項とされていた。すなわち、逗子市では、昭和六〇年一〇月一日から、逗子市教育委員会教育長に委任する事務等に関する規則(<書証番号略>、以下「新規則」という。)が施行されているが、右教育財産の用途廃止の時点(昭和五九年四月一日)においては、逗子市教育委員会教育長専決規則(<書証番号略>、以下「旧規則」という。)が施行されており、同規則一条は、同条各号により教育委員会の議決事項として留保された事項を除いては教育長に専決処理させるものとしており、教育財産の用途廃止に関する事項は、教育長の専決事項とされていた。新規則においては、二条一二号により、「教育財産の用途の廃止に関する事項」を教育委員会の議決事項としているが、本件の用途廃止の決定は、旧規則施行中のことであり、教育長が専決することは当然である。

(二) (三)及び(四)の土地について

(三)及び(四)の土地は、(一)及び(二)の土地に隣接した国所有の道路であったが、逗子市は、昭和五七年一月五日、道路法一〇条一項の規定に基づき路線の廃止をし、同年一一月八日逗子市名義の所有権保存登記をして、普通財産とした。

(三) 以上のとおり、別紙物件目録三記載の各土地は、本件交換契約が締結された昭和五九年五月一五日の時点では、いずれも普通財産であった。

2  議会の議決について

(一) 地方自治法九六条一項六号は、条例で定める場合を除くほか、財産の交換には議会の議決が必要である旨規定しているが、同号に基づく条例として一五号条例が制定されているから、交換契約の締結に当たっては、一五号条例二条(普通財産の交換)に該当する限り、議会の議決を要しない。

逗子市においては、例えば沼間小学校においては、特別教室の普通教室への転用、校庭の狭溢化、児童の遠距離バス通学などの事態が生じ、教育効果の減退が著しい。また、法律の基準である四〇人学級を編成するという目的もある。さらに、逗子市立小学校五校のうち三校が、学校教育法施行規則の学校規模の標準規定における、学級数一二学級以上一八学級以下、児童総数六〇〇人から九〇〇人とする基準を上回っており、これを基準に合わせる必要があった。このため、沼間地区に一校増設することが急務であり、逗子市は、小学校用地とする目的で別紙物件目録三記載の各土地を取得したのである。そして、本件交換契約締結の時点においても、沼間地区に小学校を建設する必要性は依然として存在していた。

したがって、本件交換契約は、一五号条例二条一項一号の「本市において公用又は公共用に供するため他人の所有する財産を必要とするとき」という要件に該当し、一五号条例に従って締結されたものであるから、議会の議決は不要である。

(二) 本件交換契約は、被告会社らが等価を超えて土地及び費用を提供しようとするものであり、逗子市の議決を要しない場合である。

3  本件交換契約による逗子市の損害について

(一) 逗子市は、前記のとおり、本件交換契約により小学校用地二万二六一八平方メートルを取得し、本件協定により、中学校用地、コミュニティ用地を無償で入手したほか、公共施設整備協力負担金や公共公益施設整備協力費等の名目で多額の金銭を得ており、本件交換契約は、何ら逗子市に損害を与えるものではない。

(二) 原告らは、本件交換提供地と本件交換取得地を比較すると価格において不均衡である旨主張するが、逗子市の提供する本件交換提供地七八二五平方メートルとこれにより取得する本件交換取得地二万二六一八平方メートルとを比較すれば、その位置に差があるのみであって、両土地の時価価格の差は、平方メートル単位で二倍の差はないというべきであり、両土地の価格を単純に比較するだけでも、明らかに逗子市が利益を受けている。

(三) 原告は、後記(八3)のとおり、逗子市は、都市計画法及び逗子市開発指導要綱により、右公共施設用地等は本件交換提供地を提供するまでもなく、被告会社らに無償提供させることができた旨主張するが、学校用地は、右要綱等の遵守を被告会社らに要求することによって当然に取得できたものではない。

すなわち、都市計画法三二条による事前協議においては、開発業者と市との間で開発行為の規模に応じて教育施設その他の公益的施設を市に帰属させる取り決めをしなければならないが、市に帰属させる公共的施設の規模、範囲、位置などは、市と開発業者との具体的話し合いを経て合意に達するものであり、その内容について法律の規定はない。そこで、逗子市においては、逗子市開発指導要綱(<書証番号略>)を策定して、開発業者を指導するときの基準としている。

同要綱によれば、開発業者に小学校用地を提供させるべき開発は、一〇〇〇戸以上の住居を建設する開発である(要綱二六条一項)。ところが、被告会社らの事業による建設戸数は五四四戸であって、この場合は公共公益施設整備協力費を開発業者に負担させることになる(要綱二六条二項、三五条)。したがって、逗子市が同要綱の遵守を被告会社らに要求するだけでは、逗子市は、単に教育施設整備の協力費を受領するにとどまり、学校用地を入手することはできない。右協力費以上のものを逗子市が入手するためには、相応の交渉技量が必要であり、逗子市は、小学校用地としては狭溢な別紙物件目録三記載の各土地を含む本件交換提供地を交換に供することにより、小学校用地、さらには中学校用地を取得することができたのである。

(四) なお、別紙物件目録三(一)及び(二)記載の各土地については、逗子市土地開発公社が横須賀市水道局からこれを購入する際、同土地に学校を建築するという用途目的を変更する際には、横須賀市水道局の承認を受けるものとする旨の約定があった。そこで、逗子市は、昭和五八年七月七日から、別紙物件目録三記載の各土地に小学校を建設せず位置を変更すること及び右各土地を交換に供することについて、横須賀市水道局と協議を開始し、同年九月三〇日、その同意を得たものである(承諾書の交付は、被告会社らの環境影響予測評価手続が進行し、宅地造成事業の実施が確実に見込めるようになってから行うこととした。逗子市は、昭和五八年一〇月一四日付けで横須賀市水道事業管理者宛てに承諾を求める書面を送付し、翌五九年六月二六日付けで同管理者から用途目的変更を承認する書面を受領した。)。

4  以上のとおりであるから、本件交換契約には原告の主張するような違法はない。

八  被告らの主張に対する原告らの認否反論

1  本件交換提供地が行政財産であることについて

(一) 公有財産における行政財産と普通財産の分類は、その用途によって定まるものであり、地方公共団体内部でいかなる分類をしているかによるものではない。別紙物件目録三記載の各土地は、本件交換契約締結時において依然として行政財産であったものである。

(二) (一)及び(二)の土地について普通財産への切り替えがなされたとしても、教育財産の用途廃止は教育長の専決事項には当たらず、教育委員会の議決事項であるから、教育委員会の議決を経ていない普通財産への切り替え手続は違法である。

すなわち、旧規則は、逗子市教育委員会の権限の教育長への委任について定めているところ、旧規則一条各号により教育委員会の議決事項として留保されている権限は、いずれも重要な基本的事項である。この中に「教育財産の用途廃止に関する事項」と明示したものはないが、教育財産の用途廃止は、その重要性からみれば、同条六号の「学校その他の教育施設の設定及び変更を決定すること」に該当するというべきであり、旧規則下においても、教育財産の用途廃止は教育委員会の議決事項であったと解すべきである。新規則が「教育財産の用途の廃止に関する事項」を教育委員会の議決事項として明示したのは、旧規則下においても教育委員会の議決事項であった権限を注意的、確認的に明示したものである。

2  議会の議決について(一五号条例の不適用等)

(一) 小学校建設の目的の欠如について

逗子市は、当初から別紙物件目録三記載の各土地上に小学校を建設する目的は有しておらず、これらの土地が被告会社らの宅地造成のために必要であったことから、被告会社らに使用させるためにこれを取得したものである。したがって、本件交換契約は、被告会社らの宅地造成に協力するために締結されたものであり、本件交換取得地を公用又は公共用に供するためのものではない。

仮に、逗子市が当初は公用又は公共用に供するために別紙物件目録三記載の各土地を取得したとしても、本件交換契約締結の時点においては、小学校を建設する必要性は既になくなっていた。すなわち、逗子市においては、年々小学校の新入児童が減少する傾向にあり、例えば、沼間地区に隣接する池子小学校では、生徒数減少のために学級数が減少した学年がある程で、沼間地区に小学校を新設する必要性はなくなっていた。したがって、交換契約によって小学校用地を取得する必要はなく、本件交換契約は、本件交換取得地を公用又は公共用に供するためのものではない。

(二) 一五号条例二条一項但書の適用について

本件交換提供地と本件交換取得地との価額の差額は、その高価な方の価額の六分の一をこえるものであることが明らかであり、一五号条例二条一項但書に該当する。

(三) 以上のとおり、本件交換契約については、一五号条例の適用はない。そして、同条例に該当しない場合は、地方自治法九六条一項六号及び八号(但し、本件交換契約の当時は七号)に基づき、議会の議決が必要である。同法二三七条二項は、公有財産の一定の管理処分行為を原則的に禁止するが、その例外として、処分が許される場合の一般原則を定めたのが一五号条例である。そして、これに該当しない交換契約は、同法九六条一項八号に基づいて処理され、同号を受けて制定されたのが一四号条例である。

一四号条例三条にいう財産の「取得」とは、交換等による財産の増加等、「処分」とは、交換等による財産の減少等を意味し(逗子市公有財産規則(逗子市規則第一〇号、<書証番号略>)二条)、本件交換契約の締結はこれに該当するから、同条例により議会の議決が必要である。

3  逗子市の損害について

被告らの主張によれば、逗子市が本件交換契約及び本件協定により、本件交換提供地の代償として得るものは、

ア 小学校用地二万二六一八平方メートル

イ 本件交換提供地の使用料、迷惑料として六六〇〇万円

ウ 公共公益施設整備協力費負担金一億六五七八万三八〇〇円

エ 中学校用地二万四七二七平方メートル

オ コミュニティ用地一二八〇平方メートル

である。

しかし、右ウないしオは、本件交換契約等によって逗子市が得る利益ではなく、被告会社らが開発行為をするというだけのことから逗子市が得るものである。ウは、開発許可の事前協議において、逗子市開発指導要綱に基づく協議の結果取得する公共公益施設整備協力費負担金であり、本件交換提供地の代償として取得するものではない。エ及びオも都市計画法三三条一項二号、六号により開発区域内に適正配置が義務づけられ、その帰属について同法四〇条二項により今後逗子市に帰属することが予定されているものであるところ、その費用負担について開発許可の事前協議の結果、無償となったものに過ぎず、やはり本件交換提供地の代償として取得するものではない。

結局、本件交換提供地を被告会社らに提供して逗子市が得るのは、右ア及びイの利益であるに過ぎないところ、これらの利益を取得するために殊更本件交換提供地を提供することを要するものではないから、本件交換契約等は、逗子市に損害を与えるものというべきである。すなわち、逗子市は、都市計画法三二条、四〇条三項及び逗子市開発指導要綱に基づき、被告会社らから公共施設用地を無償で提供させることができるのであり、逗子市における開発の通常の例によれば、小学校用地は、被告会社らに本件交換提供地を提供するまでもなく、取得することができる。それにもかかわらず、逗子市が小学校用地取得のためと称して被告会社らに本件交換提供地を提供する本件交換契約は、明らかに違法な財産処分である。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因について

請求原因1(二)及び(三)、同2ないし4並びに6の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

同1(一)の事実は、原告らと被告逗子市長との間においては争いがなく、被告会社らとの間においては、弁論の全趣旨により、これを認めることができる。

以上の事実によれば、原告らの本件訴えは適法というべく、また、逗子市が本件土地の所有権を喪失しない限り、その請求を認容すべき余地があるから、以下に、同市が右所有権を喪失したか否かにつき検討する。

二本件交換契約の成立について(抗弁)

1  <書証番号略>並びに証人宮原秀臣及び同高橋輝平の各証言によれば、次の事実が認められる。

被告会社ら代表取締役らは、昭和五九年五月一五日付けの逗子市開発指導要綱に基づく協議書(<書証番号略>)において、逗子市との間で、小学校用地を確保し、逗子市の用地と交換することを約し(協議事項一四)、協定書(<書証番号略>)及び協議書(<書証番号略>)において、さらに詳細な内容を協議した。すなわち、被告会社ら代表者らは、同日付けの協議書(<書証番号略>)において、逗子市長三島虎好との間で、東逗子住宅団地造成事業区域内に小学校用地を造成して逗子市所有地と交換し、その所有権移転登記は、工事完了検査後速やかに行う旨を約し(二、三条)、また、被告会社らは、同日付けの協定書(<書証番号略>)において、逗子市との間で、小学校用地について、逗子市所有地と被告会社らが事業区域内に計画する土地とを交換する旨を約し(二条)、これを受けて同日付けの覚書(<書証番号略>)において、交換対象地(本件交換提供地と本件交換取得地、一条)、交換条件(不等価不等積の交換であり、評価差額については被告会社から逗子市へ無償提供し、清算はしない。二条)、引渡及び登記申請時期(交換取得地は造成工事完了後速やかに引き渡し、交換提供地はそれと同時に引き渡す。所有権移転登記については造成工事竣工後速やかに申請手続をする。三条三項、四項)等について合意した。これらの合意は、造成が終わった時点において所有権が移転するという内容だった。

昭和六二年六月一九日、被告逗子市長は、被告奈良建設に対し、第六小学校用地について、同年八月を目途とした引渡を依頼し、同日、被告奈良建設は、第六小学校用地の取扱について、被告逗子市長に対し、覚書三条三項、四項に定める事務処理を求めている(<書証番号略>)。

本件登記の登記原因は、昭和六三年三月三一日交換とされているが、右日付けは造成工事が完了して引き渡せるような状態になった時点を意味し、この日に改めて被告会社らと逗子市との間で交換契約が結ばれたことはない。

2 右に認定したとおり、逗子市及び被告会社らは、昭和五九年五月一五日の段階で、協議書、協定書、覚書等の形でそれぞれの所有する土地の交換に関する合意を書面にし、その時点では引渡や登記等の処理を後に残しているものの、昭和六二年六月一九日において、被告奈良建設が被告逗子市長に対して、小学校用地の取扱について覚書の規定に基づいた事務処理を求めていることや、その後被告らの間において改めて交換契約を締結していないことからすれば、本件交換契約は、所有権移転の効力の発生、引渡及び登記を造成工事の完成の時とする特約付の確定的な契約であったというべきである。そして、造成工事が竣工したことは、当事者間に争いがない。

3  ところで、本件交換契約締結時においては、本件交換取得地が未だ造成されていないため、交換対象土地の引渡時期は確定しておらず、土地の具体的評価額も明らかにされていない。また、<書証番号略>によれば、逗子市においては、同市の契約に関する必要な事項につき、逗子市契約規則が定められており、同規則において、契約書の作成や記載事項等について規定されているが、本件交換契約は、覚書と題する書面によって締結されているのみである。

しかし、前記のとおり、本件交換契約は、所有権移転の効力の発生等を造成工事の完成の時とする特約付の確定的な交換契約であるから、土地引渡の時期が明らかでないことは当然であり、これが契約成立の妨げになるものではない。また、本件交換契約は、不等価不等積の交換であり、交換土地の評価差額について清算しないものとされており、引渡に際し交換面積に若干の差異が生じても互いに異議を唱えない旨約されている(覚書二、三条)から、当事者間においては、土地の評価を覚書において明示しておく必要性を感じなかったものであって、土地の具体的評価額が明らかにされていないことをもって契約の成立を否定することはできない。さらに、地方自治法二三四条五項は、普通地方公共団体が契約につき契約書を作成する場合においては、契約書に記名押印がなければ当該契約は確定しない旨規定しており、逗子市契約規則も契約書の様式、記載内容等について規定しているが、地方自治法の右規定及び逗子市契約規則の諸規定は、契約書を作成する場合について定めたものであり、地方公共団体の締結する契約においても、契約書の作成は契約成立の要件となるものではなく、契約書作成義務が課されているわけではないから、覚書等の方式による合意も許されるものである。本件においては、契約書という文言こそ使用されていないが、当事者間の合意内容を書面化した覚書に基づき、本件交換契約の成立を認めることに何らの妨げはないというべきである。

4  よって、本件交換契約の成立が認められる。

三本件交換契約の無効について(再抗弁以下)

1  本件交換提供地の性格について(五1、七1、八1)

<書証番号略>並びに証人高橋輝平の証言によれば、(一)及び(二)の土地は、昭和五九年四月一日、行政財産の用途を廃止され、逗子市長に引き継がれたこと、(三)及び(四)の土地は、昭和五七年一一月八日逗子市名義の所有権保存登記がされ、逗子市公有財産規則七条に基づき、同月一六日付けで財務課長に引き継がれたことが認められ、本件交換契約当時、いずれも普通財産であったことが認められる。

なお、証人高木栄一の証言によれば、(一)及び(二)の土地を教育財産から普通財産に変更する手続は、旧規則に基づき、教育長の専決により行われ、教育委員会の決議を経ていなかったことが認められ、原告らは、この点をとらえて手続違反であると主張する。しかし、<書証番号略>によれば、旧規則は、昭和三一年一〇月一日から、新規則は、昭和六〇年一〇月一日からそれぞれ施行されたこと、旧規則は、新規則の施行と共に廃止されたこと、新規則においては、教育財産の用途廃止に関することは、教育長に委任できない旨規定されているが(二条一二号)、旧規則には、同趣旨の規定がないことが認められ、旧規則一条六号の「学校その他の教育施設の決定及び変更を決定すること」という条項に、教育財産の廃止が含まれるということはできないから、(一)及び(二)の土地を教育財産から普通財産に変更するに当たって、教育委員会の決議を経なくても何ら問題はない。

よって、本件交換契約が行政財産を目的とするものであって違法・無効であるということはできない。

2  議会の議決について(五2、七2、八2)

(一)  本件交換契約の締結に当たり、議会の議決を経ていないことは、当事者間に争いがない。

(二)  一四号条例の適用について

原告らは、本件交換契約の締結については、一四号条例の適用があり、議会の議決が必要であると主張するので(五2(二))、まず、この点について検討する(なお、地方自治法の規定については、以下、現行法による。)。

<書証番号略>によれば、一四号条例は、地方自治法九六条一項五号の規定により逗子市議会の議決に付すべき契約の種類及び金額と、同項八号(旧七号)の規定により同市議会の議決に付すべき財産の取得又は処分の種類及び金額とに関して、条例の規定を設けたものである(二、三条)。そして、財産の交換につき議会の議決を要するか否かについては、同法九六条一項六号がこれを規定し、同項八号は、「前二号」(六、七号)に定めるもの(財産の交換等及び信託)を除いた、それ以外の種類の財産の取得又は処分について適用されるものであるから、財産の交換については、同項六号がすべてこれを定めているというべきである。そして、同号は、財産の交換について、条例で定める場合を除いて議会の議決が必要であるというのであるから、当該条例に該当すれば議決が不要になり、これに該当しなければやはり六号の規定によって議決が必要であるということになる。したがって、地方自治法九六条一項五号及び八号の場合について定める一四号条例が、財産の交換について適用される余地はないというべきである。

なお、原告らは、逗子市公有財産規則(<書証番号略>)の定める定義規定との整合性を問題にするが、一四号条例にいう財産の取得又は処分は、既に指摘したごとく、その根拠法規である地方自治法九六条一項八号の規定内容からも明らかなとおり、財産の取得又は処分一般をいうのではなく、同項六号及び七号に規定する種類の財産の取得又は処分を除外したもののみを問題とするのであるから、右定義規定の関係を問題とすること自体無意味である。そして、一四号条例三条(現行のもの。)は、現に不動産若しくは動産の買入れ若しくは売払い不動産の信託の受益権の買入れ若しくは売払いのみを、議会の議決事項としている。

よって、本件交換契約の締結について、一四号条例の適用の問題を考慮する余地はないというべきである。

(三)  一五号条例の適用について

地方自治法九六条一項六号は、原則として財産の交換を議会の議決事項とするが、条例で定める場合を除いている。そして、<書証番号略>によれば、一五号条例は、財産の交換、譲与、無償貸付等に関して定める条例であるから(一条)、逗子市においては、一五号条例が同号にいう条例ということになる。したがって、本件交換契約が一五号条例二条に該当するものであれば、原則として議会の議決を必要としないものということができる。

(1) <書証番号略>、証人高橋只雄、同高橋輝平、同高木栄一及び同宮原秀臣の各証言、被告富野暉一郎本人尋問の結果並びに前記争いのない事実を総合すれば、次の各事実が認められる。

① 第三中学校及び第六小学校の新設は、昭和四九年度ころからの計画であり、昭和五〇年に始まる一〇か年計画の中に位置付けられていた。

② 昭和五三年の秋ころ、横須賀市水道局沼間ポンプ場が廃止になるという情報を得て、当時、沼間地区に小学校を作りたいと考えていた逗子市は、右ポンプ場跡地((一)及び(二)の土地に相当する。)を取得しようと考え、市長、助役などの理事者が、右土地を小学校用地として取得したい旨、横須賀市に話を持ち込んだ。また、このような状況の下、昭和五四年五月二日付けで、逗子市教育委員長から逗子市長に対し、沼間地区において小学校を新設するため、約一万五〇〇〇平方メートル程度の用地を確保してほしい旨の申し出もされていた(<書証番号略>)。

逗子市は、横須賀市との折衝において、ポンプ場跡地の取得について手応えを得たが、その後、ペーパーロケイション等をして検討した結果、右土地は、小学校用地としては狭いということが明らかになってきた。しかし、周辺の民有地を買収して必要面積を確保することをなお考えていた。

③ 被告奈良建設は、昭和四五年ころから、沼間地区における宅地造成事業を開始し、途中一時中断したものの、昭和五四年暮れころからは、被告丸紅も参加して宅地造成事業を進めるようになり、昭和五五年春ころから逗子市と事前の相談に入っていた。このころ、被告会社らは、ポンプ場跡地と民有地との間にある既存の道路を拡幅し、事業地への進入路として使用したいと考えていたが、逗子市が周辺の民有地を買収してポンプ場跡地部分に小学校を作る計画を持っていることを知り、新入路拡幅のためポンプ場跡地の一部を譲り受けるべく、造成地内に学校を作る旨の申し出をした。そして、その後、昭和五六年にかけて逗子市のほうから中学校用地がほしいという話があった。

④ 昭和五六年一月二三日の時点において、逗子市長は、ポンプ場跡地と被告会社ら所有の土地とを等価交換して小学校用地を取得したいと考えていた(<書証番号略>)。

逗子市教育委員会は、昭和五六年の段階で、適正規模の確保、児童の通学の距離・時間の短縮等の観点から、第六小学校が必要であると考えていた。

⑤ 昭和五六年三月一二日、逗子市土地開発公社は、小学校建設用地に供する目的をもって、横須賀市水道局から、(一)及び(二)の土地を購入した。

昭和五七年六月九日、逗子市は、逗子市土地開発公社から、(一)及び(二)の土地を購入した。

⑥ 被告奈良建設は、昭和五七年一二月二日受付の林地開発計画概要書において、小学校及び中学校用地が配置された土地利用を考えていた(<書証番号略>)。

⑦ 昭和五八年一〇月一四日、被告逗子市長は、横須賀市と逗子市土地開発公社との間の(一)及び(二)の土地の売買契約書六条により、横須賀市水道局長に対し、学校建設用地の用途目的変更の承認を求め、その際、被告会社らの事業実施区域内に学校建設用地を確保し、(一)及び(二)の土地の一部との交換をする意向を伝えた(<書証番号略>)。

⑧ 昭和五九年五月一五日、逗子市と被告会社らとの間で、本件交換契約が締結された。このころ、沼間小学校は、適正規模を超えており、特別教室の不足やグランドの狭溢化等の問題が生じており、また、児童のバス通学もなくしたいと考えていたことから、逗子市及び逗子市教育委員会は、第六小学校が必要だと考えていた。

⑨ 昭和五九年六月二六日、横須賀市水道局長は、被告逗子市長に対し、(一)及び(二)の土地の用途目的変更の承認を書面でしたが(<書証番号略>)、これより前に口頭で了解を与えていた。

⑩ 昭和六〇年初頭、学校建設についてとられたアンケートでは、地区の意見が賛否両論に分かれ、被告逗子市長において、新しい学校が必要であるという従来の方針を変更するだけの根拠が得られなかった。

その後、小学校について、予算措置や建設計画等の行政的対応はされておらず、現在においても小学校は建設されていないが、これは逗子市全体の行政的対応がされておらず、事業化されていないということであるにすぎず、教育委員会としては、単に現在の児童数の問題だけにとらわれず、ゆとりのある学校を作ることや長期的にみた場合の児童数の増加への対応を考え、なお学校建設の計画を持っている。

(2) 以上の事実によれば、逗子市の行政当局においては、昭和五〇年ころから、小学校及び中学校を新設する必要性が意識され続けており、その必要性は、必ずしも児童・生徒数のみによって決せられたものではなかったといえるから、(一)及び(二)の土地の取得及び本件交換契約は、いずれも小学校建設用地を取得することが目的であったというべきであり、小学校建設の必要性は現在においてもなお存在するということができる。

もっとも、被告逗子市長においては、(一)及び(二)の土地の取得に先立つ昭和五六年一月の時点で、既にポンプ場跡地と被告会社らの土地との交換を考えていたのであるが、右時点において、被告会社らの宅地造成事業が具体的に実現するかどうかは未だ流動的であったというべきであり、逗子市としては、ポンプ場跡地の周辺の民有地を買収して小学校用地とする計画をも有していたのであるから、右交換は、ひとつの有力な可能性として、ポンプ場跡地上に小学校を建設することと並行して考えられていたというべきである。仮に、(一)及び(二)の土地を取得する時点で、右交換の可能性が相当程度高くなっていたとしても、そのことは、本件交換契約が小学校用地を取得するためのものであることを否定する理由にはならない。

したがって、本件交換契約は、一五号条例二条一項一号に該当するものというべきである。

(3) 同項但書の適用について(八2(二))

同項但書は、「価額の差額がその高価なものの価額の六分の一をこえるときは、この限りでない。」と規定している。本件交換契約において、本件交換提供地の面積が七八二五平方メートル、本件交換取得地が二万二六一八平方メートルであると主張されていることについては、当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば、両土地が不等価であることは本件交換契約においても前提になっていることが認められるが、両土地の価額の差額がどれだけかについては、必ずしも明確でないから、本件交換契約が右但書に該当する場合であるとは断定できない。

3  本件交換契約による莫大な損害等について(五3、七3、八3)

本件交換提供地と本件交換取得地の価額は、本件において必ずしも明らかではないから、本件交換契約が価額において適正を欠き、逗子市に莫大な損害を与えるということはできない。むしろ<書証番号略>によれば、本件交換契約を含む本件協定の内容は、被告会社らが、

ア  宅地造成区域内に小学校用地二万二六一八平方メートルを造成したうえ、逗子市所有の本件交換提供地七八二五平方メートルと交換する、

イ  逗子市に対し、宅地造成区域内に中学校用地二万四七二七平方メートルを無償提供する、

ウ  交換により取得する本件交換提供地のうち、一二八〇平方メートルをコミュニティ用地として逗子市に無償提供する、

エ  逗子市に対し、公共施設整備協力負担金として六六〇〇万円を納入する、

オ  逗子市に対し、公共公益施設整備協力費として、総額一億六五七八万三八〇〇円を納付する。

というものであることが認められ、逗子市に利益を与えこそすれ、損害を与えるものではないことが認められる。

また、前記2において認定したとおり、本件交換契約は、小学校用地を取得する目的でされたものであり、一私企業の利益をはかるためのものであるということもできない。

さらに、(一)及び(二)の土地の取得に際し、その用途目的変更の場合に横須賀市水道局との協議が必要であることは当事者間に争いがないが、前記2において認定したとおり、逗子市は、横須賀市水道局長から、右承諾を得ており、書面による承諾の時期は、本件交換契約の後ではあったが、事前に口頭による承諾がされていることも考えれば、逗子市が右承認を得ることなく本件交換契約を締結したということはできない。また、右の承認の有無は、逗子市あるいは逗子市土地開発公社と横須賀市水道局との間の問題であり、このことが本件交換契約の効力に直ちに影響するものではない。

四よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐久間重吉 裁判官辻次郎 裁判官伊藤敏孝)

別紙物件目録一ないし三<省略>

別紙交換提供地目録<省略>

別紙登記目録<省略>

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